覚醒(3)

 大好きな少女が銃弾に倒れた、その姿が何度も脳裏に蘇る。

 

 ――環子が死んじゃう。

 

 現実から目を背けたくても、倒れる様子が何度も繰り返される。

 なんでオレたちを狙うんだろう。環子が巻き込まれてしまったじゃないか。

 それに――非力な自分も許せない。

 

 ――環子、死んじゃいやだ!

 

 何度も何度も、祈りを込めて願う。何が起きているかも知らず、ただひたすらに。

 

 ――黒恵――

 

 はっとした。環子に呼ばれた気がした。

 環子の姿を求めて、黒恵は意識を外へ向け始めた。

 

 

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 防壁があるにもかかわらず、風に髪も服もなぶられる。

 寒風と雨で身体の芯まで冷えていく。でもそれが今は幸いし、寒さで痛みが麻痺して感じなくなった。

 目を閉じ、精神を集中させる。感覚が研ぎ澄まされて、前方の霊気の塊をより強く感じ取れた。

 そして、自分の“カケラ”の存在も。

 前方に突き出した両手が、“カケラ”の霊気を感じて、じんわりと熱を帯びはじめる。

 

 戻って来い――

 

 “カケラ”と自分をリンクさせる。戻ってこいと強く念じて。

 ドクン・ドクン――

 鼓動を感じる。これは“カケラ”? それとも……

 

 ――環子!

 

 力強く脈打つ鼓動。“カケラ”を通じて、黒恵の心と鼓動を感じる。

 “カケラ”の存在が間近に思える。黒恵の存在も。

 

 ――黒恵! 気づいて。わたしを見て!

 

 

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 黒恵に対峙している環子と青嗣の背後で、朱李と真白はその目で変化を捉えていた。

「今ちょっとクロちゃん、動いたよね!?」

「そう見えましたが……」

 環子は両足を踏ん張り、一心不乱に念を込めているようだ。微動だにしない。

 青嗣も環子を支援するため、黒恵の方にだけに集中している。背後の憂いは、朱李と真白に預けられていた。

 ふと、どこかから乱れた調子の男の声が聞こえてきた。

「……なんだか聞き苦しい声がしますね」

「あ、あのオジサンだよ!」

 真白が指差す先に視線を向けると、屋上に内藤がいた。顔色をなくして、上空を指差しわめいている。

「な……なんだ!? なんなんだ、アレは!!」

 泡を吹き出さんばかりに狼狽している内藤を、大柄な男が押し戻そうとしている。

 暗殺者を恐れていた男は、意外と霊的なものが視えるタチだったらしい。

 それ以上、内藤の観察は止めにして、朱李は視線を戻す。この暴風雨にわざわざ屋外へとやってくる連中は、どうやら皆無らしいこともわかったので。

 風が少し威力を弱めたようだ。

 黒恵の傍に浮いていた丸い光の玉が、環子と黒恵の中間あたりに移動している。着実に変化してきていた。

 身体を張って、黒恵のために力を尽くす環子。

 そんな彼女に、朱李は自身の中に渦巻いていた怒りが鎮まっていることに気づく。

 

 ただ利用するため、騙していたのか。

 そう思ったときに感じた失意と怒り。でも、環子が銃弾に倒れた時、そんなものは吹き飛んでしまった。

 敵か味方か分からない、正体不明の環子。それでも感情は育つのだ。

 

 ――美しく、謎に満ちた少女。

 

 彼女の秘密を知ったとき、気持ちは冷めるだろうか?

 分からない。まだ始まってもいないのだし。

 

「シュウちゃん、なに笑ってるの?」

 きょとんと見返してくる真白に、はっと我に返る。

「――なんでもありません」

「ふぅーん」

 誤魔化してみたが、白々しいのは承知していた。この末弟はなかなか鋭いのだ。

「あっ! シュウちゃん、見て!」

 真白が興奮して指差す先を朱李も見上げる。

 蹲っていた黒恵がゆっくりと頭を起こし、双眸を開き始めていた。